従来の日本の花火業界でもっとも重視されてきたのは、花火の「形」。「きれいな色を出すこと」はあまり研究されず、炭火色と呼ばれる赤橙色の一色だけでした。
それぞれの光の色が次々に変化する「虹の町 まえばし」
しかし、吉田さんはどこまでも「色」にこだわります。特に、ピンクやレモン色、水色などのパステルカラーが出せる技術者は少ないそうで、これが上州花火工房のひとつの大きな価値でもあります。
「ピンクは赤を薄くした色ではなくて『ピンク』という色。水色は青を薄くした色ではなく『水色』という色なんです。もともとある色を薄めて使っても綺麗にならないことが多いから、うちでは、きちんと狙った色に合わせて調合して色を出しているんですよ」
その言葉通り、花火の色は常に改良を重ねています。2023年の前橋花火大会で披露された「虹の町 まえばし」では、バランスよくスムーズに色が移り変わるよう、14色を使って7色の変化を表現しました。
吉田さんの「色」を使いこなす感覚、そして、それぞれの色を美しく変化させるための技術。このふたつが相乗効果を生み、「上州花火工房にしか作れない花火」が実現されています。
鉛玉のように重い星。落としても割れないほど硬い
花火の色を司るのは、「星」とよばれる火薬の球。出したい色に合わせて薬品や金属粉を調合して芯をつくり、泥団子の要領で何度も火薬をコーティングして成形します。
吉田さんが作る星は、他の花火師のものと比べて「硬い」と言われています。鮮やかな発色を実現するために、通常の1.5〜2倍くらいの密度を持たせているのだそうです。
「ふつう、『硬い星には火がつきづらい』と言われているんですよ。でも、適切な着火技術があれば大丈夫。これまで誰も試してこなかっただけなんです」
火薬をまとわせては天日干しする。花火作りは全体を通して天候の影響を受ける